発達障害
発達障害

発達障害は、生まれつきの脳の「働き方の違い」によって、ものの感じ方や考え方、行動のパターンに特徴があらわれ、そのため日常生活や集団生活で困りごとが生じる状態です。本人の努力不足や育て方が原因ではなく、生まれ持った発達の特性です。
発達障害にはいくつかのタイプがあり、状況や年齢、個人差によって特徴が重なり合うこともあります。
当院では以下の特性についてご相談をお受けしています。
以前は「広汎性発達障害」「自閉症」「アスペルガー症候群」などと分けて呼ばれていましたが、現在は、知的発達の程度にかかわらず共通する特性をまとめて指す、より広い概念として「自閉スペクトラム症(ASD)」と呼ばれることが多くなっています。
幼児期には、人と目を合わせにくい、指さしをしない、友達への関心が薄いといった様子が見られることがあります。言葉の発達が遅い場合もありますが、言葉が出ていても会話のやり取りが難しく、一方的に話してしまうこともあります。
また、特定のものや分野への強いこだわりが見られることもあります。電車や車、お気に入りのキャラクターのことになると延々と話し続ける一方で、興味がないことにはなかなか目が向きません。毎日の予定や手順が変わることが苦手で、急な変更に強い不安や怒りがあらわれ、かんしゃくにつながることもあります。
音や光、におい、服のタグのチクチクした感覚などに非常に敏感な「感覚過敏」を伴うことも少なくありません。一方で、記憶力が良かったり、好きな分野については大人顔負けの知識を身につけたりと、得意な面がはっきりしているお子さんも多いのが特徴です。
「集中が続きにくい」「じっとしていることが苦手」「考えるより先に行動が出てしまう」といった特徴を持つ発達障害です。小さい頃は、落ち着きがない、走り回る、順番を待てない、他の人の会話に割り込んでしまうなどの行動が目立ちやすく、学校に入ると、忘れ物が多い、宿題や課題を最後までやり切れない、片付けが極端に苦手といった形で現れてきます。
不注意の面が目立つお子さんでは、「話を聞いていないように見える」「指示を忘れてしまう」「簡単なミスが多い」といった困りごとが続きます。多動・衝動性が強いお子さんでは、その場にふさわしくないタイミングで話し出してしまったり、思ったことをすぐに行動に移してしまったりするため、周囲から誤解されやすく、「落ち着きがない」「わがまま」と叱られてしまうことも少なくありません。
ただ、興味のあることには驚くほど集中できるという特徴もあります。行動力や好奇心の強さは大きな強みであり、環境の工夫や声かけの仕方を変えることで、お子さまの力が生かされやすくなります。
限局性学習症(LD)は、全体としての知的発達に大きな遅れがないにもかかわらず、「読む」「書く」「計算する」など特定の学習の領域にだけ強い苦手さが現れる状態です。たとえば、音読になると極端に時間がかかる、漢字を書くのがどうしても覚えられない、簡単な計算でよく間違える、といった形で気づかれることがあります。
周囲から見ると「やればできるはず」「もっと頑張ればいいのに」と映ってしまうこともあり、繰り返し注意されることで、お子さん自身が「自分はダメなんだ」と感じてしまうことがあります。しかし、これは努力不足ではなく、情報の受け取り方・処理の仕方の違いによるものです。環境を整えることで力を発揮できることが少なくありません。
協調運動症は、体のバランスをとったり、手先を器用に使ったりすることが難しい状態を指します。走る、跳ぶ、ボールを投げる・受けるといった動きがぎこちなく見えたり、靴ひもを結ぶ、ボタンを留める、ハサミで紙を切るなどの日常的な動作に時間がかかったりすることがあります。
一見すると「不器用」「やる気がない」と思われることもありますが、本人は精一杯頑張っています。それでもうまくいかない経験が積み重なると、運動や工作に苦手意識を持ち、挑戦する前からあきらめてしまうこともあります。少しずつ成功体験を積み重ねていくこと、周囲が無理をさせすぎずに見守ることが、自信につながっていきます。
チック症は、意思とは関係なく、まばたき、顔をしかめる、首を振る、肩をすくめるといった素早い動きや、咳払い、鼻をすする、声を発するなどの発声が繰り返し起こる状態です。症状は一時的に強くなったり弱くなったりしながら変化し、緊張したときや疲れているときに目立ちやすい一方、遊びに夢中になっているときや眠っているときにはほとんど見られないことが多いです。
これらの運動チックや音声チックが1年以上にわたり続き、種類が多く、日常生活や学校生活に大きな支障が出ている場合には、「トゥレット症」と呼ばれます。ごく一部の方では、不適切な言葉を突然発してしまう症状がみられることもありますが、これは本人の意思とは関係なく起こるもので、決して「わざと」ではありません。
チック症状は成長とともに軽くなっていくことも多く、無理にやめさせようとしたり、「やめなさい」と繰り返し叱ったりすると、かえって意識してしまい悪化することがあります。周囲が特性を理解し、「出てしまうもの」として受け止めることが大切です。
吃音(きつおん)は、話そうとしたときに音を繰り返したり、伸ばしたり、言葉がつかえて出てこなかったりする状態です。幼児期のことばが急速に増える時期に見られることが多く、「あ、あ、あのね」「かーーさ」「……えっと」といった話し方が続くことで気づかれます。
一時的にどもるように聞こえても、多くは成長とともに自然に目立たなくなっていきます。しかし、まわりの反応によっては、「話すのが怖い」「自分の話し方はおかしい」と感じてしまい、人前で話すこと自体を避けるようになることもあります。
大切なのは、急かしたり、「ゆっくり話して」「落ち着いて」と何度も指摘したりしすぎないことです。最後まで話を聞いてもらえるという安心感が、お子さんの「話したい」という気持ちを支えていきます。
発達障害は、「脳の働きの違い」がもとで起こるものであり、「性格の問題」「親のしつけのせい」ではありません。同じ診断名でも、特性の現れ方や困りごとの内容、得意なことは一人ひとり異なります。
発達障害は「直す」「元に戻す」ものではなく、その子の特性を理解しながら、得意なところを伸ばし、苦手なところに対しては環境や関わり方を工夫することで、生活のしづらさを減らしていくことが大切です。
当院は、発達の偏りが気になるお子さまについての相談窓口となります。診察の中で、お子さまの様子やこれまでの経過、ご家族の心配事を一緒に整理し、お子さまの特性に合った関わり方や、園・学校との連携の仕方を考えていきます。
必要に応じて、発達支援センターや療育機関、専門の医療機関への紹介・連携も行います。「こんなことを相談していいのかな」と迷われるようなことでも、まずは一度お話をお聞かせください。
早めに特性を理解し、周囲が配慮や支援を行うことで、お子さんが安心して成長していける可能性は高まります。「診断名をつけること」が目的ではなく、「その子が少しでも生きやすくなること」が一番大切です。
お子さま一人ひとりの特性を理解し、その子らしさを大切にしながら、日々の生活が少しでも楽になるよう、当院も一緒にサポートしてまいります。
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